Rust

Rust パターンマッチの網羅性

Rustのパターンマッチは網羅性が検査され、網羅的でない場合はコンパイルエラーになる。網羅性は以下のように検証される。 型の分類 パターンマッチの網羅性をするときには、全ての型がADTのように扱われる。つまり、有限個の引数をとるコンストラクタが有限…

Rustのmatchにおけるカンマの省略

Rustの match の腕はカンマで区切られるが、これが省略できる場合が2つある。 末尾のカンマ => { .. } の直後のカンマ fn main() { match Some(1) { Some(x) => { } // => { .. } の直後にはカンマは省略可能 None => () // 末尾のカンマは省略可能 } } この…

Rustの構造体/列挙型フィールドの並べ替え

現在の安定版では無効化されているが、Rustのbeta/nightlyには構造体/列挙型フィールドの自動並べ替えが実装されている。この動作を説明する。 例 以下のようなプログラムを書くと、現在の安定版では6が表示され、beta/nightlyでは4が表示される。 use std::…

Rustの配置構文とbox構文

概要: Rustの不安定機能である配置構文とbox構文の仕組みを説明する。 配置構文の動機 Rustの値渡しはデフォルトでムーブであり、コピーコンストラクターのような重い処理が勝手に実行されることはないから、多くの場面では値渡しのコストはそれほど高くない…

Rustの型推論の概略

概要: Rustの型推論の大枠を説明する。 なお、筆者もRustの型推論の動作を詳細に把握しているわけではない。 短くまとめると Rustの型推論はHindley-Milner型推論ベースである。したがって後方の式や文の内容から手前の型が推論されることもある。しかし以下…

Rustのtry-catch構文

Rustのnightlyに新しく入ったtry-catch関連構文を紹介する。 do catch によるcatch構文 #![feature(catch_expr)] use std::fs::File; use std::io::{self, BufReader, Read}; fn main() { do catch { let f = File::open("foo.txt")?; let mut f = BufReader…

Rustのderiveはあまり頭がよくない

概要: Rustの derive はあまり頭がよくない。 derive がドジを踏む例 derive の問題は顕在化しやすく、RustコンパイラのGitHub上でも何度も重複するissueが投げられていた。今は主に #26925 を中心に議論がまとまっているので、そちらを参照するとよいだろう…

Rustのスレッドローカル変数について

Rustには2種類のスレッドローカル変数がある。 #[thread_local] 属性 #[thread_local] 属性は、指定した static アイテムをスレッドローカルにするようにLLVMに伝える。これによりC言語のスレッドローカル変数と同様に、ELFリンカ側の処理によりスレッドロー…

Rustにおけるキーワードの役割一覧

概要: Rustにおけるキーワードの役割をできる限り列挙する。キーワードではないものについても一部取り上げる。 強キーワード部門 キーワード 役割 as 修飾パス <T as Tr>::foo useとextern crateにおける別名 use foo as bar; 型の変換 x as usize box box式 box 1 b</t>…

Rustにおける記号の役割一覧

概要: Rustにおける記号の役割をできる限り列挙する。 ASCII制御文字部門 文字 役割 HT (水平タブ) 空白 LF (ラインフィード) 空白文字列中の改行シバン #! や行コメント // の終わり VT (垂直タブ) 空白 CR (キャリッジリターン) 空白CRLFでLFと等価に振る…

FnBoxについて

Rustの FnBox について、動機・仕組み・問題点を説明する。 FnBox の動機 以前の記事では、「「クロージャを boxせずに 返したい」という欲求は人類の四大欲求のひとつと言われている。 」と書いたが、出所の異なるクロージャを同じ型で扱う必要がある場合は…

Rustで引数型と戻り値型がSizedでなくてもよい条件

過去の記事でSizedについて説明したが、関数の引数と戻り値についてはやや直感に反する条件が適用されているので説明する。 戻り値型: 関数やメソッドが本体をもつ場合に検査される。本体を持たない場合は Sized でなくてもよい。 引数型: それ自体は検査さ…

RustのUnsafeCellとFreeze

概要: UnsafeCell の存在目的について説明する。 UnsafeCell とは UnsafeCell とは、その名前の通り、内部可変性(interior mutability)を実現するためのunsafeはプリミティブである。 UnsafeCell の代表的な用途は内部可変性を実現するための安全なラッパー…

Rustの身代わりパターン

概要: &mut 参照に対して所有権が必要な操作をするときは特定のパターンが用いられる。これを身代わりパターンとでも呼ぶことにする。 例: 単方向リンクリスト またしても単方向リンクリストを考える。 struct List<T> { root: Option<Box<Node<T>>>, } struct Node<T> { value</t></box<node<t></t>…

Rustコンパイラのデバッグ出力を見る

Rustコンパイラの細かい挙動を追うには、コンパイラ内に設置してある debug!(..) の出力を追う手がある。 デバッグ出力を有効化してコンパイラをビルドする まず手元のRustコンパイラのソースから、デバッグ出力を有効化したコンパイラを作成する必要がある…

Rustの基本型のメソッドはどこで定義されているか

概要: Rustの基本型そのものはコンパイラで特別に定義されている。では型に関連づけられたメソッドはどこにあるのか。 固有メソッドのありか 固有メソッドは core の各所で定義されている。例えば i32 の固有実装は core::numに定義されている。 #[lang = "i…

RustマクロでFizz Buzz

RustのマクロでFizz Buzzを書いてみた。 gist.github.com このFizz Buzzは、ループと倍数判定をマクロで処理している。10進数として表示する部分はマクロではなくRust本体に任せていりう。 動作の説明 Rustの macro_rules! でメタプログラミングを行う場合、…

Typed Arenaとdropck

概要: Typed Arenaはdropckの目的を説明するよい例になっている。 Typed ArenaとDrop 以前 Typed Arenaの紹介記事 を書いたが、このソースコードに以下のように Drop の実装を足してみる。 extern crate typed_arena; use std::cell::RefCell; use typed_are…

RustのNULLポインタ最適化

概要: RustのNULLポインタ最適化について説明する。 NULLポインタ最適化とは 以下のようにポインタ型のOptionが、元のポインタと同じサイズになる最適化である。NULLをNoneに割り当てている。 fn main() { println!("{}", std::mem::size_of::<Box<u32>>()); // 8 pri</box<u32>…

末尾再帰をループにできないRustプログラムの例

概要: 生存期間の関係で、ループでは書けないが末尾再帰では書けるアルゴリズムの例を挙げる。 単方向リンクリスト 次のような単純なリンクリストを考える。 struct List<T> { root: Option<Box<Node<T>>>, } struct Node<T> { value: T, next: Option<Box<Node<T>>>, } backの実装 単方向</box<node<t></t></box<node<t></t>…

Rustのshebang comment

shebangはRustではコメントとみなされる。 #!/bin/cat fn main() { println!("Hello, world!"); } shebangとみなされる条件は、 ファイル(字句解析の処理単位)の先頭である。 #! で始まっている。 #![ で始まっていない。 である。LF \n またはファイルの末…

君のRustは20倍遅い

Rustはデフォルトでは本来の力を発揮しない。試しに手頃なベンチマークを3個くらい試したらだいたい20~100倍程度遅かった。 「Rustで ○○ を高速にする方法」が知りたい人は、まず、Rustコンパイラが本来の力を発揮しているか確認したほうがよい。 Cargoの場…

Rust構文解析器のトークン分割戦略

他の多くの言語と同様、Rustの字句解析器は貪欲にトークンを分割する。しかし構文解析の途中で必要に迫られて、さらに細かくトークンを分割する場合がある。 先にまとめ 以下の場合は、構文解析のタイミングで字句がさらに細かく分割される。 式の位置に、前…

Rustでグラフを表現するにはTyped Arenaが便利

概要: Rustでグラフのように相互参照を含むデータ構造を表現するには、Typed Arenaという方法が適している。これについて説明する 整数による表現 グラフの表現方法で、最も簡単なのは、ノードを整数で表し、グラフのデータを別に持つ方法である。 fn main()…

Rustの基本型の名前解決

Rustの基本型の名前はキーワードではない。したがって基本型の名前は名前解決と同時に処理されることになる。ところがややこしい点として、基本型と同名のモジュールに解決される場合もある。この挙動について調べた。 基本型の名前は PrimitiveTypeTable::n…

Rustのモジュールの復習

以前名前解決についてまとめたが、やはり調べ損ねている部分があるので、もう一度まとめてみた。 DefとModuleとNameBindingKind DefId はRust中に出現する定義(enum, enum のバリアント、 fn, let, macro_rules! foo など)を指している。これはcrateのID + c…

Rustの文でセミコロンを省略してよい条件

Rustの文でセミコロンを省略してよい条件を説明する。 意味論的な原則 Rustのセミコロンは意味と構文からそれぞれ説明できる。意味論的には、以下の原則を覚えておけば十分である。 セミコロンで終端された文は強制的に () 型となる。 ブロックの途中の文は …

Rust トレイトオブジェクトの生存期間境界の既定値

概要: トレイトオブジェクト型には生存期間を指定できるが、省略した場合既定値が適用される。この既定値を決定する規則について説明する。 トレイトオブジェクトの生存期間境界 トレイトオブジェクトは正確には以下の構文を持つ。 // obligation 1: only Se…

トレイトオブジェクトのメソッド解決

Rustのこのissueで知ったが、トレイトオブジェクトのメソッド解決はやや特殊らしい。 特殊といっても特に難しいことはない。トレイトオブジェクトは、元となったトレイトを実装するが、それだけではなく、元のトレイトのメソッドを、固有メソッドとしても解…

Rustで使わない変数名をつけるのとアンダースコアの微妙な違い

変数はブロックの末尾まで生存するが、アンダースコアは変数ではないためその文の中でのみ生存する。どうせ使わないからほぼ同じだが、Dropの順番が異なる。 struct A(&'static str); impl Drop for A { fn drop(&mut self) { println!("dropped: {}", self.…