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Rustにおける記号の役割一覧

概要: Rustにおける記号の役割をできる限り列挙する。 ASCII制御文字部門 文字 役割 HT (水平タブ) 空白 LF (ラインフィード) 空白文字列中の改行シバン #! や行コメント // の終わり VT (垂直タブ) 空白 CR (キャリッジリターン) 空白CRLFでLFと等価に振る…

FnBoxについて

Rustの FnBox について、動機・仕組み・問題点を説明する。 FnBox の動機 以前の記事では、「「クロージャを boxせずに 返したい」という欲求は人類の四大欲求のひとつと言われている。 」と書いたが、出所の異なるクロージャを同じ型で扱う必要がある場合は…

Rustで引数型と戻り値型がSizedでなくてもよい条件

過去の記事でSizedについて説明したが、関数の引数と戻り値についてはやや直感に反する条件が適用されているので説明する。 戻り値型: 関数やメソッドが本体をもつ場合に検査される。本体を持たない場合は Sized でなくてもよい。 引数型: それ自体は検査さ…

RustのUnsafeCellとFreeze

概要: UnsafeCell の存在目的について説明する。 UnsafeCell とは UnsafeCell とは、その名前の通り、内部可変性(interior mutability)を実現するためのunsafeはプリミティブである。 UnsafeCell の代表的な用途は内部可変性を実現するための安全なラッパー…

Rustの身代わりパターン

概要: &mut 参照に対して所有権が必要な操作をするときは特定のパターンが用いられる。これを身代わりパターンとでも呼ぶことにする。 例: 単方向リンクリスト またしても単方向リンクリストを考える。 struct List<T> { root: Option<Box<Node<T>>>, } struct Node<T> { value</t></box<node<t></t>…

Rustコンパイラのデバッグ出力を見る

Rustコンパイラの細かい挙動を追うには、コンパイラ内に設置してある debug!(..) の出力を追う手がある。 デバッグ出力を有効化してコンパイラをビルドする まず手元のRustコンパイラのソースから、デバッグ出力を有効化したコンパイラを作成する必要がある…

Rustの基本型のメソッドはどこで定義されているか

概要: Rustの基本型そのものはコンパイラで特別に定義されている。では型に関連づけられたメソッドはどこにあるのか。 固有メソッドのありか 固有メソッドは core の各所で定義されている。例えば i32 の固有実装は core::numに定義されている。 #[lang = "i…

RustマクロでFizz Buzz

RustのマクロでFizz Buzzを書いてみた。 gist.github.com このFizz Buzzは、ループと倍数判定をマクロで処理している。10進数として表示する部分はマクロではなくRust本体に任せていりう。 動作の説明 Rustの macro_rules! でメタプログラミングを行う場合、…

Typed Arenaとdropck

概要: Typed Arenaはdropckの目的を説明するよい例になっている。 Typed ArenaとDrop 以前 Typed Arenaの紹介記事 を書いたが、このソースコードに以下のように Drop の実装を足してみる。 extern crate typed_arena; use std::cell::RefCell; use typed_are…

RustのNULLポインタ最適化

概要: RustのNULLポインタ最適化について説明する。 NULLポインタ最適化とは 以下のようにポインタ型のOptionが、元のポインタと同じサイズになる最適化である。NULLをNoneに割り当てている。 fn main() { println!("{}", std::mem::size_of::<Box<u32>>()); // 8 pri</box<u32>…

末尾再帰をループにできないRustプログラムの例

概要: 生存期間の関係で、ループでは書けないが末尾再帰では書けるアルゴリズムの例を挙げる。 単方向リンクリスト 次のような単純なリンクリストを考える。 struct List<T> { root: Option<Box<Node<T>>>, } struct Node<T> { value: T, next: Option<Box<Node<T>>>, } backの実装 単方向</box<node<t></t></box<node<t></t>…

Rustのshebang comment

shebangはRustではコメントとみなされる。 #!/bin/cat fn main() { println!("Hello, world!"); } shebangとみなされる条件は、 ファイル(字句解析の処理単位)の先頭である。 #! で始まっている。 #![ で始まっていない。 である。LF \n またはファイルの末…

君のRustは20倍遅い

Rustはデフォルトでは本来の力を発揮しない。試しに手頃なベンチマークを3個くらい試したらだいたい20~100倍程度遅かった。 「Rustで ○○ を高速にする方法」が知りたい人は、まず、Rustコンパイラが本来の力を発揮しているか確認したほうがよい。 Cargoの場…

Rust構文解析器のトークン分割戦略

他の多くの言語と同様、Rustの字句解析器は貪欲にトークンを分割する。しかし構文解析の途中で必要に迫られて、さらに細かくトークンを分割する場合がある。 先にまとめ 以下の場合は、構文解析のタイミングで字句がさらに細かく分割される。 式の位置に、前…

Rustでグラフを表現するにはTyped Arenaが便利

概要: Rustでグラフのように相互参照を含むデータ構造を表現するには、Typed Arenaという方法が適している。これについて説明する 整数による表現 グラフの表現方法で、最も簡単なのは、ノードを整数で表し、グラフのデータを別に持つ方法である。 fn main()…

Rustの基本型の名前解決

Rustの基本型の名前はキーワードではない。したがって基本型の名前は名前解決と同時に処理されることになる。ところがややこしい点として、基本型と同名のモジュールに解決される場合もある。この挙動について調べた。 基本型の名前は PrimitiveTypeTable::n…

Rustのモジュールの復習

以前名前解決についてまとめたが、やはり調べ損ねている部分があるので、もう一度まとめてみた。 DefとModuleとNameBindingKind DefId はRust中に出現する定義(enum, enum のバリアント、 fn, let, macro_rules! foo など)を指している。これはcrateのID + c…

Rustの文でセミコロンを省略してよい条件

Rustの文でセミコロンを省略してよい条件を説明する。 意味論的な原則 Rustのセミコロンは意味と構文からそれぞれ説明できる。意味論的には、以下の原則を覚えておけば十分である。 セミコロンで終端された文は強制的に () 型となる。 ブロックの途中の文は …

Rust トレイトオブジェクトの生存期間境界の既定値

概要: トレイトオブジェクト型には生存期間を指定できるが、省略した場合既定値が適用される。この既定値を決定する規則について説明する。 トレイトオブジェクトの生存期間境界 トレイトオブジェクトは正確には以下の構文を持つ。 // obligation 1: only Se…

トレイトオブジェクトのメソッド解決

Rustのこのissueで知ったが、トレイトオブジェクトのメソッド解決はやや特殊らしい。 特殊といっても特に難しいことはない。トレイトオブジェクトは、元となったトレイトを実装するが、それだけではなく、元のトレイトのメソッドを、固有メソッドとしても解…

Rustで使わない変数名をつけるのとアンダースコアの微妙な違い

変数はブロックの末尾まで生存するが、アンダースコアは変数ではないためその文の中でのみ生存する。どうせ使わないからほぼ同じだが、Dropの順番が異なる。 struct A(&'static str); impl Drop for A { fn drop(&mut self) { println!("dropped: {}", self.…

Rustのstd::mem::forgetがunsafeでない理由

Rustのstd::mem::forgetはunsafeではない。このことはAPIドキュメントに説明されている。Rustのオブジェクトは二重dropしてはいけないが、dropをせずに放置する分には(少なくともメモリ保護の観点からは)安全であり、 Drop を実装する側は drop が呼ばれなく…

Rustのasm!マクロが生成するもの

Rustのasm! はインラインアセンブリを挿入するための組み込みマクロである。さて、このマクロは何を生成しているのか。 実は、RustのASTには、対応する具象構文を持たない特殊な抽象構文 InlineAsm が定義されている。 pub enum ExprKind { Box(P<Expr>), ... /// </expr>…

extern "rust-call" とは何か

extern "rust-call" は(Rust 1.16.0時点では) Fn, FnMut, FnOnce の宣言に出現する。この意味について Rust issue 41058: Get rid of the “rust-call” hack の説明がわかりやすい。 Currently, we fake variadics by defining functions with the rust-call …

Rustの多相性にかかわる構文

概要: Rustの型多相性の詳しい挙動を調べる前に、まず構文を調べる。 型仮引数 型仮引数のフォーマットは以下の通りである。 (parse_generics) < と > で囲った部分に、型仮引数の名前をカンマ区切りで指定する。 末尾のカンマは省略可能である。 型仮引数は…

Rustで挿入ソート + 強制move outで高速化

挿入ソートは時間計算量 のソートアルゴリズムであるが、特に入力 の転倒数に対して で抑えられること、また定数倍で高速なことから特定の場面で使われる場合がある。 Rustで挿入ソートを素朴に実装すると以下のようになる。 pub fn safe_insert_sort<T: Ord>(arr: &</t:>…

記事の更新頻度について

1日1回更新は一ヶ月続けることができた。ブログ駆動で色々調べる機会が得られたのはよかったが、さすがにこの頻度は大変なので、以降は2日に1回の更新にしようと思う。また、既存の記事の英訳をしてみるのもよいかもしれない。

RustのジョークRFC

Rustでは言語仕様に対する大きな変更はまずRFCという形で投稿し、十分に検討をしながらコンパイラに組み込むことになっている。(これはIETF RFCとは同名だが別のもので、 Rust RFCsで管理されている。Python PEPsと似たような仕組みといえる。) 先日、Rust R…

ハッシュベースの署名(公開鍵署名)を書いてみた

Post-Quantum Cryptography, Daniel J. Bernstein, Johannes Buchmann, and Erik Dahmen, Springer-Verlag Berlin Heidelberg, 2009の冒頭部で、ごく簡単なハッシュベースの署名アルゴリズムが紹介されていて感動したのを思い出したので書いてみた。 コード…

Rustの単一実装トレイトパターン

概要: ただ一つの実装をもつトレイトを定義するデザインパターンでできることとデメリットを紹介する。「単一実装トレイトパターン」という名前は今考えたもので、他に名前があるかもしれない。 既存の型や既存のトレイトにメソッドを追加する Rubyというプ…

Rustの名前解決(5/5) 可視性判定

概要: Rustの名前解決の詳細について解説する。本記事では、解決された名前の可視性判定について説明する。 名前解決にかかわる構文 インポート解決 パス解決 メソッド記法とメンバ変数と関連アイテムの解決 可視性判定 可視性 Rustの可視性は ast::Visibili…

Rustの名前解決(4/5) メソッド記法とメンバ変数と関連アイテムの解決

概要: Rustの名前解決の詳細について解説する。本記事では、型情報を必要とする名前の解決を説明する。 名前解決にかかわる構文 インポート解決 パス解決 メソッド記法とメンバ変数と関連アイテムの解決 可視性判定 曖昧性が生じる例 この記事で扱うのは、型…

Rustの名前解決(3/5) パス解決

概要: Rustの名前解決の詳細について解説する。本記事では、パス解決について説明する。 名前解決にかかわる構文 インポート解決 パス解決 メソッド記法とメンバ変数と関連アイテムの解決 可視性判定 パス解決とは Rustで foo::bar のようにパスを書いたとき…

Rustの名前解決(2/5) インポート解決

概要: Rustの名前解決の詳細について解説する。本記事では、インポート解決について説明する。 名前解決にかかわる構文 インポート解決 パス解決 メソッド記法とメンバ変数と関連アイテムの解決 可視性判定 名前解決のタイミング コンパイラの名前解決に関す…

Rustの名前解決(1/5) 名前解決にかかわる構文

概要: Rustの名前解決の詳細について解説する。本記事では、名前解決に関する構文を紹介する。 名前解決にかかわる構文 インポート解決 パス解決 メソッド記法とメンバ変数と関連アイテムの解決 可視性判定 Rustのモジュール Rustのコンパイルはcrate単位で…

Rustのthread local gensym/internパターン

概要: Rustでgensymおよびinternを行う方法を説明する。 gensymとinternとは何か gensymパターンは、「まだ使われていない整数」を返す fresh() 関数を実装するというパターンである。型推論などで一時変数を作成するなどの用途で用いられる。 internパター…

Rustマクロの衛生性はどのように実現されているか(2/2) 構文の優先度に関する衛生性

概要: Rustマクロは2つの意味で衛生的である。その衛生性の説明とともに、それを実現するためのコンパイラの仕組みを説明する。 Rustマクロの2つの衛生性 Rustマクロ (ja) は次の2つの意味で衛生的(hygienic; 健全ともいう)である。 マクロ内で導入される変…

Rustマクロの衛生性はどのように実現されているか(1/2) 識別子に関する衛生性

概要: Rustマクロは2つの意味で衛生的である。その衛生性の説明とともに、それを実現するためのコンパイラの仕組みを説明する。 Rustマクロの2つの衛生性 Rustマクロ (ja) は次の2つの意味で衛生的(hygienic; 健全ともいう)である。 マクロ内で導入される変…

Rustは構文解析をしてからマクロを展開する

C言語では字句解析の次が前処理で、前処理のあとに構文解析が行われるが、Rustでは構文解析が終わってからマクロが展開される。 より正確に説明すると、Rustのコンパイルはcrate単位で行われ、crateのコンパイル処理の冒頭部は以下の2フェーズに分かれている…

Rustのself引数まとめ

概要: Rustの随所でself引数は特別扱いされている。それらの挙動について調べた。 self引数とメソッド Rustではnon-staticメソッドは self という特殊な名前の引数を持つ関数として定義されている。例えば、 struct A; // parse_self_arg impl A { fn f1(sel…

Rustトレイトの既定実装と否定実装

概要: SendやSyncなど一部のトレイトで採用されている機能である、既定実装と否定実装の挙動を調べた。 既定実装と否定実装について 既定実装(デフォルト実装, 自動実装, オート実装, default impl, auto impl)と否定実装(negative impl)はRust RFC 0019: Op…

Rustの組み込みマクロ

Rustのマクロの多くは macro_rules! で定義されるが、トークン列をトークン列に変換するものなら何でもマクロとして実装されうる。 Rustの標準ライブラリのマクロの多くは core::macros にて定義されている。 以下のマクロは通常の macro_rules! により定義…

Rustのマングリング(名前修飾)

Rustの生成したネイティブコードを見ると、 _ZN6thread5sleep20h87eee61de4645181cAbE のようなシンボル名が見える。この例は std::thread::sleep に対応している。このようにRustの(単相化された)アイテム(関数や変数など)の名前をリンカが認識できる文字列…

Rustのvtableの内部構造

trait objectは、型情報を忘れるかわりにvtableへの参照を持ち回すことで動的ディスパッチを実現している。 vtableを生成するコードはrustc_trans::meth 112行目にある。これによると、vtableの構造は以下のとおり。 0番目: Drop Glue をあらわす関数ポイン…

RustでPhantomDataにT以外のものを入れるのはなぜか

PhantomDataにT以外のものを入れるのは、主に3つの理由がある。 生存期間変数に言及するため。 変性を制御するため。 所有関係を制御するため。 生存期間変数に言及するため 型だけではなく、生存期間変数も、迷子になっては困る。こういうときは参照を使っ…

Rustで型の多相再帰はできない

OCamlやHaskellに比べると、Rustは多相再帰ができない場合がほとんどである。以下にその詳細を説明する。 多相再帰 異なる型引数による再帰呼び出しを多相再帰 (polymorphic recursion) という。多相再帰はPurely Functinoal Data Structuresで紹介されてい…

RustのDropの実装に対する制約とDrop Checkの規則

DropとDrop CheckについてはThe Book: DropとNomicon: Drop Checkを読んでもらうとして、この辺りの規則はコンパイラの typeck::check::dropckのコメントに解説がある。 Dropの非伝搬性 ところで、筆者が個人的に勘違いしていた点として、「 T: Drop である …

Rustのクエスチョンマーク

Rustに出現するクエスチョンマーク let f = File::open("input.txt")?; はRust 1.13で導入された機能で、ほぼ try! の構文糖衣である。 「ほぼ」というのは、 ? が将来的にはより汎用的に使えるように設計されているためで、 Result に限らない一般の std::o…

Rustのsize_of_valはどこで実装されているか

概要: std::mem::size_of_val はRustでもCでも実装できない。どこで実装されているかを調べた。 size_of_val が特殊な理由 std::mem::size_of_val は std::mem::size_of の親戚である。 size_of はCのsizeofと似たようなものだと言ってよい。 RustはCとは異…

クロージャを boxせずに 返したい: Rustのconservative_impl_traitとimplementation leak

概要: 「クロージャを boxせずに 返したい」という欲求は人類の四大欲求のひとつと言われている。 conservative_impl_trait という機能を使うことでこれをスパッと解決できるが、これは単なる構文糖衣にとどまらずRustの型システムに食い込むこともあってか…